本日のマンガ紹介は 「おやすみプンプン」です。
○作者 浅野いにお
○出版社 小学館
○掲載誌 ヤングサンデー ビッグコミックスピリッツ
○発表期間 2007-2013
○巻数 全13巻
■あらすじ
どこにでもありそうな或る街に住んでいる、どこにでもいそうな或る少年。彼の名前は…「プンプン」。これは、「フツーの」小学5年生・プンプンの、波瀾万丈の人生をおった、成長の物語――
~ジャンル分類~
モラトリアム日常漫画
~要素方程式~
[プンプン]×[愛子ちゃん]
=[狂気]×[陰鬱]×[愛]
浅野いにお作品歴では作画・物語・表現など
完成度では一番おススメできる本作品。
主軸はプンプンという少年と
プンプンが恋をした愛子ちゃんとの
日常や恋愛模様が描かれる内容なのですが
ひとつだけ、本当にひとつだけ
普通の漫画とは違うところがある。
それはページを開けばすぐにわかります。
保健室で目を覚ますと
愛子ちゃんがいて呆然とするプンプン。
愛子ちゃんと一緒に寝ている落書きはなんだろう。
宇宙人?ヒヨコ?ぬいぐるみ?幻想?
実はこの落書きこそ「プンプン」。
そして正真正銘、小学校5年生の男の子だ。
「おやすみプンプン」では
この落書きのようなキャラクターが
日常の風景に入り込んでいる。
そしてプンプンの姿には誰もツッコミやしない。
読者だけがプンプンの姿に見えているのです。
つまりは、日常+非日常のような構図で
物語が進む(プンプンの家族も全員この表現)
それでも話の根本はモラトリアム作品で
プンプンが何を思ってどんな行動に出るのか
一人の少年プンプンの成長物語です。
~見所ポイント~
①日常+非日常の世界観
小学校5年生から始まるプンプンの
独特で挑戦的なマンガ表現と
現実的で繊細な心理描写表現と
熱いような冷たいような
攻めてるような守りのような
この不思議な読み心地はすごい。
きっと世界観に引き込まれると思う。
小説家「伊坂幸太郎」はコミックの帯にこう書く。
「メインストリームでいくのか
前衛的に行くのか悩んだ結果
前衛的でありながらも王道を駆け抜けるような
すごいことをしようとしている気がします」
まさにそう。
この「おやすみプンプン」は
漫画の枠をぐっと広げようとしている・・。
②小学5年から始まるモラトリアム
話の大筋は小学校5年生で恋をした愛子ちゃんと
鹿児島へ行く約束を守れなかったプンプンが
後に再会を果たし群像劇のなかで描かれる
ドロドロと重く、陰鬱で、劇的で、退廃的な
限りなく「鬱系」に分類される毒々しさが魅力。
中学生になり愛子ちゃんが別の人と付き合い
その姿に衝撃を受けるプンプン。
プンプンの群像劇は長い時間軸が描かれ
小学校、中学校、高校、フリーターへと続く。
そして様々な女性との出会いが描かれるも
やはり心の奥底にある「愛子ちゃん」への想いは
本作品の根本であり主軸もそこは変わりません。
高校生、フリーター編以降からの「陰鬱さ」は
本当に濃密で恐ろしくドロドロと深い内容なので
この読み応えは体力も精神もかなり使います笑。
③作画技術の飛躍
作者作品歴で言えば「素晴らしい世界」の
後半以降からCG技術のデジタル作画がみられ
本作品でCG技術の作画は完成された気がする。
このCG技術による「実写的」な要素と
プンプンのキャラの「抽象的」な要素が
アンバランスで独特な世界観に拍車をかける。
④愛子ちゃんとの逃避行の行方
※以下ネタバレを含みます。
プンプンは様々な出会いや悲劇を乗り越え
大好きだった愛子ちゃんの悲惨な現状を救うため
かつて愛子ちゃんと約束した鹿児島へ逃避行へ。
この後の展開は本当に「鬱々しく」悲惨な展開で
その様は太宰治の「人間失格」を彷彿とさせる。
全13巻。
最終巻前の12巻を当時読み終わった自分は
本作品のラストを3種類に分けて予想を待った。
ここで言う「良い」「悪い」は
あくまで客観的な善悪の意味であって
作品としての「良い」「悪い」ではない。
作品の良し悪しはそれこそ人それぞれです。
むしろ「悪い終わり方」のように
プンプンが生きながらえる方が
作品の「鬱々しさ」から見ると良い気がする。
この結末がどのパターンに当てはまるか。
これは是非読んで確かめてみて下さい。
⑤プンプンの最後の顔
先に挙げたラストのパターン。
そしてプンプンが最後に見せる顔。
この顔が最後の最後のテーマの答えです。
最後の最後で
この抽象的表現が真相を隠します。
自分はこう感じました。
考えることをやめた
「諦め」とも取れる「人間の弱さ」と
それでも希望にすがって
「幸せ」になろうとする「人間の醜さ」と
自分の身の周りの環境に対する
純粋な「感謝」をする「人間の善」と
3分の2の悪と
3分の1の善が入り混じった
「笑顔」に見えました。
読み手それぞれが感じる
このプンプンの「顔」がどう見えるか。
最後の最後まで考えさせられる作品です。
~注意点~
①限りなく陰鬱で泥沼
本作品、根本は陰鬱なモラトリアムですが
浅野いにおの徹底的な心理描写とマンガ表現で
相当に重く鬱々しい読み応えなので注意。
哲学的かつ実験的な表現も相まって
世界観に引き込まれると抜け出せなくなる恐れも。
自分も当時なかなかに頭を占領され笑
最終巻を読み終えた後は長く放心状態に。
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「おやすみプンプン」を一言で言うならば
「最後のプンプンの顔は何?」
テーマの観点で言えば「モラトリアム」
そしてその答えは最後のプンプンの顔が
どんな感情なのか読者に委ねられている。
浅野いにおの「作家性」「陰鬱」「表現」「画力」
すべての要素が詰まって、全13巻と量も丁度いい。
個人的に「浅野いにお」の作品歴の中では
陰鬱さが大丈夫な人には一番におススメしたい。
漫画界の枠を広げたプンプンを是非ご覧ください。
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