本日の映画紹介は 「Away」です。
○原作、監督、編集、製作、音楽
ギンツ・ジルバロディス
○配給 キングレコード
○封切日 2020年12月11日
■あらすじ
飛行機事故で島に不時着した少年が、さまざまな土地をオートバイで駆け抜けていく姿を描いたロードムービー。全編にわたりセリフは一切なく、絶望から不安、孤独、そして希望をめぐる哲学的なメタファーに満ちた冒険の旅を、美しい映像でつづっていく。(映画.com引用)
世界最大のアニメーション映画祭とも呼ばれる
アヌシー国際映画祭でコントルシャン賞を受賞。
一切のセリフがないこの長編CGアニメーションは
ラトビアの「ギンツ・ジルバロディス」が
なんとたった一人で作成した作品なのです。
~映像・音楽~
原作、監督、編集、製作、音楽・・・
すべてをひとりで担当したクリエーター
「ギンツ・ジルバロディス」
幼少の頃からアニメーション製作をしていて
まだ現在も20代の新進気鋭のクリエーター。
映像はCGアニメーションで
光、デザイン、テクスチャetc・・・
どれもシンプルで簡素な印象で
音楽に関しても広大な自然、演出など
物語に沿った素敵な聴き心地でした。
~演出・時間~
上映時間は81分。
物語全編で一切の「セリフ無し」
ストーリーやテーマは不明な点が多いが
主人公は飛行機事故で島に着陸した少年で
そこで見つけたオートバイに乗りながら
発見した地図に描いてある目的地へ向かう話。
孤独な少年の姿を描くロードムービーは
そこで出会う自然、孤独、動物、危機etc・・
緊張と希望で揺れ動く世界観で引き込まれる。
~見所ポイント~
①こだわりのカメラワーク
本作品一番の見所は間違いなく
「カメラワーク視点のこだわり」だと思う。
セリフなしで登場人物もひとりだけ。
この演出で長編アニメーションとなると
やはり飽きさせない演出は必要不可欠。
その視点でみれば本作品は
「カメラワーク視点の切り替わり」を
徹底的に、魅力的に演出している。
端的に言えば「VR」で見ているような印象で
見上げたり、見下ろしたり
近づいたり、遠ざけたり
回ったり、戻ったり
動いたり、止まったり
アニメはCGですが、カメラワークは
実写的で、時には手ぶれの画面操作もあって
この「臨場感」が本作品最大の見所であって
本作品はこの「カメラワーク」で
臨場感や世界観の確立に成功している。
②テーマは観客に委ねられる
セリフ一切なしに加えて
主人公もほとんど無表情です。
(これは個人的には驚き)
主人公には「黒い巨人の影」が見え
そいつから逃げるように地図にある
目的地へオートバイで向かう。
そこでは飛ぶのが苦手な黄色の鳥に始まり
多くの動物や、広大な自然、不思議な場所など
冒険感あふれる世界を次々に通り過ぎていく。
世界観の説明はまったくされないので
どことなく感じる哲学観やテーマは
観客に一切を委ねられてしまうので
作品を観た人達とあれこれ話したり
解釈を分かち合う楽しさがあるのだと思う。
③個人的な解釈
ここからは個人的な解釈ですが
本作品は「生」と「死」のテーマは
間違いなく重要な要素である。
主人公を追う「黒い影」は
「死」の擬人化とも言えるメタファーで
主人公の恐怖心などに影響しているよう。
物語序盤。オアシスの場所に黒い影が
侵入できず立ち止まる演出を見るに
序盤の「オアシス」は「生死」の堺を
表していたのかとも感じる。
そう考えると実は本作品の空間は
現実ではなく「生死の境を決める空間」
とも見えるようで面白い。
オアシスでは穴がある石板がいくつも並び
これは飛行機事故やこの空間で死を選んだ方の
「墓石」のようにも見えてしまう。
そういう意味では序盤のオアシスは
一見理想郷に見えるが「死」の空間であり
そこでオートバイや道具を見つけて
旅をすることを決意した少年の決断は
「生」への選択のメタファーではないかと。
黒い影がオアシスに入ってこなかったのは
実はオアシスはこの空間内では「死」であり
空間を飛び出した少年を追う理由にも合点。
墓石が並ぶことにも妙に納得してしまう。
また、黒い影に飲み込まれた少年の姿が
何かうねうねした穴に流れ進むシーンは
どこか「産道を進む赤子」にも見えて
あれは「輪廻」を表しているようにも見える。
そう考えると本作品のこの空間は
「生」「死」「輪廻」を選択する
生死の境と選択の空間とも思えてきて。
とすると本作品最後のあの結末は
主人公にとってどのような「結末」
と言えるのか。考え出すと面白い。
と、長文になってしまったので笑
ここらで打ち止め。
色んな解釈が取れる魅力を秘めています。
~注意点~
①想像と解釈の余地が大きい
とにかくセリフ無しで作品全体で
説明じみた演出が一切ないので
観客の想像と解釈に委ねられる作品です。
またいかに本作品が魅力的としても
やはり「飽きてしまう」可能性はあって。
基本的には「結論」や「展開」ではなく
「ゆったりとした時間と空間」を
楽しめるような見かたがおススメな作品。
②日本語版エンドロール
本作品鑑賞後は「エンドロール」は
きっとないんだろうなと思っていたら
(というより無いのが正解だと思う)
まさか日本語版エンドロールで
急に軽快なロックが流れて字幕が流れる。
これは完全に本作品世界観を崩してしまうし
哲学的で神秘的な余韻を楽しみたかった点を
ぶち壊してしまったので残念に尽きる。
ただまさか個人的に大ファンの
the pillowsの「MY FOOT」が流れるとは驚き。
ここで流れて欲しくは無かった・・笑。
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「Away」を一言で言うならば
「少年の行く末は生か死か輪廻か」
ラトビアの若手クリエーターが
たったひとりで3年以上の歳月をかけて
造りあげたアニメーション「Away」
セリフ無く、説明じみた展開もなく
その反面で「カメラワーク」「音楽」は
独特でこだわりを感じる演出が強く
「結末」や「結果」を求めるのではなく
「感覚」や「想像」をフルに使って没入し
深夜のレイトショーなんかで鑑賞し
ひっそりと余韻に浸りたい作品です。
きっと素敵な感覚を味わえると思います。
5つ星評価
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