本日のマンガ紹介は 「さくらの唄」です。
○作者 安達哲
○出版社 講談社
○掲載誌 週刊ヤングマガジン
○発表期間 1990年~1991年
○巻数 全3巻(文庫版上下巻)
■あらすじ
両親の海外赴任のため、美人だが出戻りの姉と二人で暮らす無気力な高校三年生・市ノ瀬利彦。彼は担任の三ツ輪先生に憧れを抱き、先生目当てで美術部にも所属していたが突然の妊娠によってその憧れは打ち砕かれてしまう。 また、同じクラスの美少女・仲村真理にも淡い想いを抱いているのだが、引っ込み思案な性格のためか話すこともままならないでいた。さらにそんな中、姉と暮らす自宅に不動産屋を営む親戚の金春夫妻が強引に転がり込み、うんざりするような共同生活が始まる。
美大進学のため画塾に通い始めた市ノ瀬は、偶然にもそこで同じく絵の勉強している仲村真理の姿を見つける。ちょっとした会話がきっかけで次第に心が打ち解けてゆく二人。 そんなある日、学校の文化祭で映画を上映する企画が持ち上がる。主演は仲村真理に決まり市ノ瀬とクラスメイトたちは一致団結し映画の撮影を進めていく。映画の撮影を通し青春を謳歌し始める市ノ瀬たち。 しかしその一方で叔父の金春はバブル景気を背景に金の力で市ノ瀬の住む街を牛耳っていくのだった…。
~ジャンル分類~
絶望モラトリアム漫画
~要素方程式~
[絶望]×[モラトリアム]×[絶望]
=[思考停止]
少し内向的な高校生の市ノ瀬は
好きな女の子の事、将来の事、世の中の事
憧れの事、性の事、自意識過剰な事・・・・
とにもかくにも青春まっただ中の
モラトリアム気質なキーワード満載の
青春ぐるぐるストーリーが展開される本作品。
内向的なちょっと引っ込み思案な市ノ瀬の
少し偏った、それでも順当な青春ストーリーが
前半の見どころ・・。
物語は親戚の金春夫妻が
家に住み着くところから傾き始める・・・。
~見所ポイント~
①超絶望
とにもかくにも本作品の魅力は青春・・・
ではなく、モラトリアム気質の少年市ノ瀬が
絶望そのものに追い込まれるその姿だ。
様々な青春ぐるぐる思考に悩まされながらも
それとなく過ごしていく市ノ瀬の家に
親戚の金春夫妻の二人が住み着いてくる。
この金春夫妻の親父は
土地転がしを活用しての不動産業で
やくざ絡みの危ない道を渡っているんですが
その親父は自分の跡取りとして
市ノ瀬をこの世界に誘う為に
将来の否定、女の事、とにもかくにも
あまりにも酷な追い込み方を繰り広げるのだ。
「惜しみない」という言葉があるが
主人公に襲いかかる「絶望」はまさに惜しみない。
惜しむどころの問題ではない。大放出なんです。
まずはそこが本作品の一番の見どころ。
②思考停止の極み
前半はモラトリアム気質な
わりと良質な青春漫画で楽しめた。
問題は後半。
後半のあまりに酷で絶望的な超展開に
もはや読者は置いてけぼり。
間違いなく頭は思考停止になります。
本当に読み終わった後のその虚無感は圧巻。
この余韻はなかなか味わえない強烈さ。
ただこの作品をみて思うのは
「結局何を伝えたかったんだろう」という感情。
青春の悩みっていうものが
ドロドロ重くそれでいて新鮮に輝くのは
単に悩みを解決する力が無かったり
考える時間がやたらと長いだけではなく
「悩んだって答えの見つからないもの」
に真剣に立ち向かうからだ。
そしてもうひとつ。
答えの見つからないものを「考えなくなる」
っていうのが 「大人になる」ってことの
重要要素なんじゃないだろうか。
意味を考えるのが「子供」なら
意味を忘れるのが「大人」だ。
そういう思考で読んでいくと
この作品は序盤に青春漫画として非常に良質な
「考えさせる漫画」だったと素直に思う。
しかしその後の展開はと言うと
あまりの絶望・恐怖に追い込まれる主人公に
もはや「考える時間」がない。
もちろん主人公も「考えを止める」。
それ故に読後の軌跡がないんです。
この「考えさせる」と「考えさせない」
の凹凸展開に読者は頭を占領されてしまう。
読む人間にとっては「少年」と「大人」を
同時に突きつけられる感覚。
そこがもうたまらない魅力。
③読む人間とは・・・
この作品を読むべき人間は・・・
まさに思春期を生きるすべての人間だ。
序盤はどんどんと市ノ瀬に共感をして
漫画作品の世界観にのめりこんで欲しい。
そして後半はただただ読み進めていけばいい。
きっと思考は停止する。
この神がかり的な序盤と終盤の展開が
この作品の魅力のすべてであって
これを読んで何の為になるのかと聞かれれば
「思考停止」としか言えない。
~注意点~
①超絶望と超展開
超絶望展開は本当に辛く
読んでいて厳しいものがあります。
鬱系統作品のなかでも指折りの破壊力。
金春親父による「金、力、女」などの
主人公への追い込み方がトラウマものです。
これは覚悟をしておいた方が良いかもしれない。
脅し、金、将来、女、セックス、レイプ、近親相姦
扱う内容が本当にゲスいので注意点。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「さくらの唄」を一言で言うならば
「考えさせないモラトリアム」
読後の虚無感と衝撃は一級品です。
ここまで頭を真っ白にさせてくれる作品は無い。
青春の特権でもある「考える」という視点を
究極の絶望で主人公を追い込ませて
「考えさせない」視点に落としている。
今、思春期を生きるすべての人間に
まずはこれを読んで 頭をぐっちゃぐちゃにして
「思考停止」をして欲しい。
そしてこの「思考停止」は
きっと「考え過ぎている」思春期の人間には
衝撃的で大切な瞬間を味わえるきっかけに
十分の破壊力を秘めた作品だと思う。
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