本日のマンガ紹介は 「虹ヶ原ホログラフ」です。
○作者 浅野いにお
○出版社 太田出版
○掲載誌 Quick Japan
○発表期間 2003-2005
○巻数 全1巻
■あらすじ
「虹ヶ原」という土地を舞台に、小学校の同級生たちの過去と今が交錯する―。
子どもたちのうわさ、トンネルの中の怪物、家族の秘密、蝶の異常発生・・・・・・あらゆる糸が絡み合い織り成す、新世紀黙示録。(コミック帯から引用)
~ジャンル分類~
究極難解SF漫画
~要素方程式~
[蝶]×[ブリキの空箱]×[世界]
=[輪廻]×[難解SF]
浅野いにお作品歴の中でも異質。
本作品だけは雰囲気が違うし
相当曲者な作品であるので要注意。
本作品はレビュー不可能かもしれない・・。
これほど難解で多視点な作品も珍しい。
また考察や解説は様々な視点も存在するため
内容については優しい目で見ていただければ(汗)
本作品を読んで
「意味不明」と投げ出してしまった人。
「雰囲気マンガ」と切り捨ててしまった人。
「他の人の見え方」を知りたい人。
そんな方に本記事が少しでも
作品理解に役立てたら嬉しいと思います。
~見所ポイント~
①交錯する複雑な物語
本作品を読んで最初に思い浮かんだのは
伊坂幸太郎さんの小説「ラッシュライフ」で
多くの登場人物たちが交錯し
ひとつの結果が生まれるような
登場人物たちの展開や交錯が見所の作品。
まずは多くの登場人物の情報をまとめて
本作品を理解しやすいようにまとめてみます。
ここだけでも作品理解に役立つと幸いです。
もうこのまとめだけで疲れました・・笑。
以上のような多くの登場人物のつながり
そして怒涛の展開に引き込まれていきます。
②結局どんなストーリー?
さて、登場人物たちの説明が終わったところで
次はどのようなテーマが本作品に示されているか。
それをちょっと解説してみます・・。
この物語の全体の流れは・・・
二人の人間。鈴木アマヒコと木村有江は
どうにもならない絶望的な運命を経験する。
この絶望そのものとも言える双子に対して
世界は滅びることしか運命はないのだと言う。
それは世界の責任。
世界の矛盾そのものがこの双子であるということ。
世界を終わらせる道具がこの世にはふたつある。
ひとつは、鈴木アマヒコが
ずっと未来の自分からもらった「ブリキの空箱」
ひとつは、双子を近づかせるため
木村有江の母が持つ「蝶のペンダント」
この二つの道具がこの物語では
どのような意味・位置づけを持つのか考えてみる。
ブリキの空箱
物語序盤。
現代の鈴木アマヒコは
未来の自分、老人アマヒコの車椅子を押しながら
小学校時代の鈴木アマヒコのもとへ向かう。
同じ時間軸に
同じ自分が三人いることになる。
物語冒頭のプロローグ。
老人アマヒコは小学生アマヒコに
「この箱の蓋を開けるかどうかは君の自由だ。
ただし、たとえ世の中がどんなに不毛だとしても
強い意志を持ちなさい。
君の人生の行く先は、君が決めていいんだよ。」
と言い放ち小学生アマヒコにブリキの空箱を渡し
名前を聞いた瞬間に消えてしまった。
物語終盤のエピローグ。
さて、このブリキの空箱の意味とはなにか。
ブリキの空箱とは・・
「この不毛な世界を受け入れるか受け入れないか」
それを示す道具。
もし開けるのなら「世界は終わる」
もし開けなければ「世界は続く」
もしもブリキの空箱を開け
世界の矛盾に耐えられずに
「世界を終わらせる」のなら
「不毛な世界の矛盾」を示すことにもなり
鈴木アマヒコは永遠に生きることを
リセットしてループすることになる。
現代のアマヒコが老人アマヒコを連れ
小学生アマヒコにブリキの空箱を渡すというのは
また生きることが始まるという
ループや輪廻の瞬間描写だと思う。
ループでも輪廻でもない次元の可能性も。
もしもブリキの空箱を開けず
「不毛な世界の矛盾」を受け入れながらも
「それでも強く生きる」と決めたとき
初めて鈴木アマヒコの世界は続いていき
死を経験できるのではないだろうか。
本作品はループや輪廻の話なんだと思う。
ブリキの空箱は
この世界の矛盾を受け入れる唯一の道具。
蝶のペンダント
木村有江の母が持つ蝶のペンダントは
双子を出会わせ「世界を終わらせる」
そのため二つに割れている。
もともと割れたのか後から割れたのかは不明。
ペンダントは物語中・・
いくつもの過程を経て鈴木アマヒコに届く。
ペンダントの行方はこんな感じだけど
このペンダントの意味・位置づけは何か。
これも「ブリキの空箱」と同じ
「世界を終わらせるため」の道具。
ただしブリキの空箱とは違い
これは木村有江の母の意志が含まれ
絶対的に「世界を終わらせてしまう」力を持つ。
ブリキの空箱とは違い可能性はない。
この二つの道具は
同じ意味でありながら
違う意味も持つ不思議な道具。
「ブリキの空箱」は
開けてもいいし開けなくてもいい。
これは自由だ。
もし開けたのなら絶望たる事実を
認めることになり世界は滅ぶことになる。
もし開けないのなら
唯一世界を滅ばないのかもしれない。
その運命を受け入れるときなのかもしれない。
そのときは世界は滅びない。
一方「蝶のペンダント」は
双子を出会わせるための道具。
世界を滅ぼすためだけの道具。
「世界を認めるも認めないも自分自身」
運命や決断、意志や勇気。
そんなテーマを
双子、ブリキの空箱、蝶のペンダントで示す物語。
「世界の矛盾」が存在しながらも
それでも普通に存在して続いていく世界。
そしてその矛盾が作ってしまった絶望的な双子。
世界の矛盾を受け入れるか
受け入れないかを示すブリキの空箱と
世界の矛盾を示し、
世界を終わらせる道具である蝶のペンダント
自分がまとめるとすると
こんなストーリー解釈になります。
③ちょっとだけ補足
ちょっとだけワンシーンの補足。
本作品がループや輪廻の話と思うひとつに
現代の鈴木アマヒコが木村有江の母のお墓の前で
お墓の右角をなでるシーンがある。
そしてその墓石は
「右上の角が取れて不自然に丸みをおびていた」
という描写があります。
硬い墓石が丸みをおびるまで
なでる回数は一体何回なのだろう。
まさにこれはループや輪廻の
描写ではないかと感じたわけです。
またブリキの空箱を開けたということは
「矛盾」を世界に作る解釈になりますが
小学生アマヒコが開けた一回目で
ひとつの矛盾が世界に作られた。
つまり同時期に小学生アマヒコと
現代のアマヒコが出会ってしまった。
そして現代のアマヒコが
二回目のブリキの空箱を開けてしまった。
ここでふたつの矛盾を世界に作る。
そのため病院の屋上シーンでは
三人のアマヒコ(ふたつの矛盾)という
視点になっているのではないかと感じます。
ということは?
ブリキの空箱を開ければその回数だけ
最後の屋上でアマヒコが何人も?と
無限アマヒコを想像すると面白いかも笑。
さて、ここまで読んでいただいた方が
いるかどうかが疑問ですが笑
考察と解釈のまとめは以上となります。
壮大な伏線とテーマが1冊に詰まっています。
考察や解釈は多くの視点を持てそうな作品だし
何度読んでも解釈が変わる作品でもありそうで。
またの機会に読むことがあれば
また考察や解釈を書き足すのもありかな。
いや・・やっぱりやらないかな笑。
~注意点~
①壮大で難解で楽しめない作品
難解で多視点で壮大です。
そして楽しめるかというとそうでもない。
自分自身も4回読んで、時系列やキャラ情報を
箇条書きでメモして記録していたので
もう何のために本作品を読んだのかと笑。
ここに関しては全1冊とは言え
簡単に手を出すと後悔するのでご注意を。
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「虹ヶ原ホログラフ」を一言で言うならば
「浅野いにお超難解SF作品」
記事冒頭に載せたコミックの帯画像に
「こんな作品、もう描けないと思います」と
作者が言うように、まさに奇跡的で熱量もすごく
異質で複雑に練られた作品です。
この1冊に詰められた様々な経緯に感謝。
「楽しめないけど衝撃的に面白い」マンガです。
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