マンガ紹介「虹ヶ原ホログラフ」

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本日のマンガ紹介は 「虹ヶ原ホログラフ」です。

○作者 浅野いにお
○出版社 太田出版
○掲載誌 Quick Japan
○発表期間 2003-2005
○巻数 全1巻


■あらすじ
「虹ヶ原」という土地を舞台に、小学校の同級生たちの過去と今が交錯する―。
子どもたちのうわさ、トンネルの中の怪物、家族の秘密、蝶の異常発生・・・・・・あらゆる糸が絡み合い織り成す、新世紀黙示録。(コミック帯から引用)

~ジャンル分類~ 
究極難解SF漫画 

~要素方程式~ 
[蝶]×[ブリキの空箱]×[世界]
=[輪廻]×[難解SF]


浅野いにお作品歴の中でも異質。
本作品だけは雰囲気が違うし
相当曲者な作品であるので要注意。

本作品はレビュー不可能かもしれない・・。

注意点

当ブログは長文や考察は控えてますが
本作品は例外で考察や解説を語ります!
ので・・かなりの長文になるのでご了承を。

出典:コミック帯の表「虹ヶ原ホログラフ」

これほど難解で多視点な作品も珍しい。
また考察や解説は様々な視点も存在するため
内容については優しい目で見ていただければ(汗)

出典:コミック帯の裏「虹ヶ原ホログラフ」

本作品を読んで

「意味不明」と投げ出してしまった人。
「雰囲気マンガ」と切り捨ててしまった人。
「他の人の見え方」を知りたい人。

そんな方に本記事が少しでも
作品理解に役立てたら嬉しいと思います。

~見所ポイント~

①交錯する複雑な物語

本作品を読んで最初に思い浮かんだのは
伊坂幸太郎さんの小説「ラッシュライフ」で

多くの登場人物たちが交錯し
ひとつの結果が生まれるような
登場人物たちの展開や交錯が見所の作品。

まずは多くの登場人物の情報をまとめて
本作品を理解しやすいようにまとめてみます。
ここだけでも作品理解に役立つと幸いです。

鈴木アマヒコ

●この物語では、小学生時代、現代(21~22歳)、老人時代の3人が登場。
●木村有江の父、木村有江の母の子供で事実上、有江とは双子の関係である。しかし両親の離婚後、木村有江の母と一緒に埼玉へ。そこで木村有江の母は、別の男性(鈴木義父)と結婚。翌年、木村有江の母が失踪し鈴木義父は別の女性(鈴木義母)と結婚。鈴木アマヒコは18歳のときまで、この鈴木義父と鈴木義母が両親だと思っていた。
●世界を滅ぼすことができるブリキの空箱を持っている。物語の重要人物。
●小学校時代、榊先生に対して性的興奮を感じる描写がある。これは実の父(木村有江の父)との血縁を表す描写?かな。わからないです。
●木村有江の母の墓の前で、荒川マキにペンダントを渡された後、意識を取り戻した木村有江と遭遇する。そして「世界は滅びる」。

木村有江

●日暮さんの兄と出会い「ある少女と7人の村人とトンネルに住む怪物の物語」を描き、その後日暮さんの兄に強姦されてしまう。おそらくその後、木村有江の母にトンネルへ呼ばれペンダントを渡される。後にこれは死体発見に繋がった?
●同級生のいじめでトンネルへ落とされ、その後は意識不明に。目を覚ますのは10年後。それまでは、実の父(木村有江の父)に性的玩具として扱われる。
●鈴木アマヒコと遭遇。「お兄ちゃん」と呼んでいるところから、双子関係であることは確実。しかし、この姿が母親(木村有江の母)に似ている、もしくは鈴木アマヒコが「お母さん・・」と呼ぶ描写については、ちょっとわからない。破滅の瞬間。

小松崎航太

●物語冒頭。内服薬を処方している姿が出てくる。小学校時代にトンネルへ落とされて以降、自己喪失になった。精神の病にかかる。
●小学校時代、唯一木村有江の父の闇に気づくことができた人物。そういう意味では善悪の判断を任せられる人物として、木村有江の母に選ばれたのかもしれない。
●木村有江の父と共にスーパーで働いている。
●スーパーの店長を穴あき包丁で殺害し、木村有江の父の左首を切った。
●トンネル内で一つ目の怪物にペンダントを譲り受け、それを荒川マキに渡す。

荒川マキ

●「prism cafe」でバイトをしている。
●西武の近くで小松崎と出会い、同じ部屋で一日を過ごすようになる。
●小学校時代、小松崎にラブレターを渡すもフラれた。
●大学の芸術学部に在学。バイト先の店長に絵をプレゼントした。

木村有江の父

●物語序盤。意識不明の有江を強姦している描写や、小学校時代の有江との縁側での会話シーンで性的興奮を感じる描写があるなど、実の娘を性的対象と見る卑劣な人物。
●小松崎の両親とは幼い頃から付き合いが。
●娘(木村有江)の学校の先生が退職するとき、スーパーの店舗で働かないかと誘われた。後にそこで働き、このスーパーの店長の親父に借金をしていることがわかる。
●木村有江が病院で意識を戻した瞬間、病院から飛び降りて自殺。

木村有江の母

●推測ではあるが、木村有江の父に殺害された。トンネル内で木村有江の父に監禁?
●蝶となって、唯一この世界を飛び回り、物語を眺めることができる存在。
●もちろん、鈴木アマヒコと有江を産んだ張本人。二人の実の母。
●トンネルの中から、有江を呼んでペンダントを渡したであろう描写がある。

鈴木の義父

●物語冒頭、口元だけが笑う描写があるベッドで寝ている男。
●木村有江の父がお墓の前にいるとき、花束を持って話しかけてきた男。
●木村有江の父に対してお墓の前で傲慢な態度を取る描写から、立場は上であると感じる。その上の立場とは、もしかしたら借金であって、そこから考えるとスーパーの店長は息子の可能性がある。

鈴木の義母

●木村有江の母の失踪後に、鈴木義母と結婚した女性。後姿のみの登場。
●息子(鈴木アマヒコ)に「死んでくれる」と冗談を言う病んでいる女性。

日暮さん

●小学校時代何故か「魔法瓶」と呼ばれる内気な女の子。
●「お兄ちゃんのスーファミがあるよ」と鈴木アマヒコを部屋に誘った。

日暮さんの兄

●荒川マキが働く「prism cafe」の店長。
●荒川マキから貰った絵を真っ二つにする描写以降、ブラック決定(笑)
●日記帳を持っている。木村有江と出会って以降「ある少女と7人の村人とトンネルに住む怪物の物語」を描くも、すでに興味は無く木村有江を強姦。そのとき木村有江の担任、榊恭子先生に発見され、榊先生を塀ブロックで殴る。
●以前、木村有江から蝶のペンダントを半分もらっている。
●雪の降る日、小学生時代の鈴木アマヒコに「あの火事、僕の家だよ」と笑ってみせた。
●喫茶店経営以降、部屋にある木村有江の人形に話しかけている。
●荒川マキを襲おうとしているとき、小松崎に後ろから傘で刺される。

榊先生(榊恭子)

●以前、木村有江を襲う男(日暮さんの兄)を助けようとして左目を負傷。それ以来「生徒のため」に負傷したことに苛立ち、木村有江がいじめられていたことを黙認した。
●同僚の羽鳥先生に迫られ鈴木アマヒコと日暮さんが、隠れていることを知らず情事に至る。後に羽鳥先生と結婚。双子の子供を授かる。
●しかし離婚することになる。河原でのシーン。子供の腕にあざがあることから、双子の子供は虐待されていることがわかる。
●木村有江の母と同じくトンネル内で死亡した(たぶん)。つまりトンネル内で小松崎にペンダントを渡した「一つ目の怪物」とはおそらく榊先生(左目を負傷=一つ目の怪物)

若松隼人

●小学校時代、小松崎と同級生の高浜くんをいじめていた。
●小学校時代、小松崎の対応に苛立ち小松崎をトンネル内に落としてしまう。
●後に警察官として登場する。荒川マキには好意を抱いている。

高浜くん

●小学校時代、いじめられっ子だった人物。
●後に榊先生と羽鳥先生が校舎を訪れたとき、校舎内で暴れ児童を刺した。

スーパーの店長(元教師)

●鈴木アマヒコのいる小学校の先生。教師を退職した後、親父のスーパーを任される。そのとき木村有江の父を社員としてどうか誘った。
●木村有江の父を肉売場加工にまわし借金を返すなら「指一本200万」と保険金の提案をした。
●後に、木村有江の父との同僚である小松崎に穴あき包丁で刺されて死亡。
●ちなみに「親父から金を借りている」ということを、木村有江の父に言っているが、親父とはもしかしたら鈴木義父かもしれない。やはり鈴木の義父が、木村有江の父に立場を上にしているから。明確ではないけど・・。

もうこのまとめだけで疲れました・・笑。

以上のような多くの登場人物のつながり
そして怒涛の展開に引き込まれていきます。

②結局どんなストーリー?

さて、登場人物たちの説明が終わったところで
次はどのようなテーマが本作品に示されているか。
それをちょっと解説してみます・・。

この物語の全体の流れは・・・

二人の人間。鈴木アマヒコ木村有江
どうにもならない絶望的な運命を経験する。

この絶望そのものとも言える双子に対して
世界は滅びることしか運命はないのだと言う。

それは世界の責任。
世界の矛盾そのものがこの双子であるということ。

世界を終わらせる道具がこの世にはふたつある。

ひとつは、鈴木アマヒコ
ずっと未来の自分からもらった「ブリキの空箱」

ひとつは、双子を近づかせるため
木村有江の母が持つ「蝶のペンダント」

この二つの道具がこの物語では
どのような意味・位置づけを持つのか考えてみる。


ブリキの空箱

物語序盤。

現代の鈴木アマヒコは
未来の自分、老人アマヒコの車椅子を押しながら
小学校時代の鈴木アマヒコのもとへ向かう。

同じ時間軸に
同じ自分が三人いることになる。

出典:コミック「虹ヶ原ホログラフ」

物語冒頭のプロローグ。

老人アマヒコは小学生アマヒコに

「この箱の蓋を開けるかどうかは君の自由だ。
ただし、たとえ世の中がどんなに不毛だとしても
強い意志を持ちなさい。
君の人生の行く先は、君が決めていいんだよ。」


と言い放ち小学生アマヒコにブリキの空箱を渡し
名前を聞いた瞬間に消えてしまった。

出典:コミック「虹ヶ原ホログラフ」

物語終盤のエピローグ。

さて、このブリキの空箱の意味とはなにか。

ブリキの空箱とは・・

「この不毛な世界を受け入れるか受け入れないか」

それを示す道具。

もし開けるのなら「世界は終わる」
もし開けなければ「世界は続く」


もしもブリキの空箱を開け

世界の矛盾に耐えられずに
「世界を終わらせる」のなら

「不毛な世界の矛盾」を示すことにもなり
鈴木アマヒコは永遠に生きることを
リセットしてループすることになる。

現代のアマヒコが老人アマヒコを連れ
小学生アマヒコにブリキの空箱を渡すというのは

また生きることが始まるという
ループや輪廻の瞬間描写だと思う。
ループでも輪廻でもない次元の可能性も。


もしもブリキの空箱を開けず

「不毛な世界の矛盾」を受け入れながらも
「それでも強く生きる」と決めたとき
初めて鈴木アマヒコの世界は続いていき
死を経験できるのではないだろうか。

本作品はループや輪廻の話なんだと思う。

ブリキの空箱は
この世界の矛盾を受け入れる唯一の道具。


蝶のペンダント

木村有江の母が持つ蝶のペンダントは
双子を出会わせ「世界を終わらせる」

そのため二つに割れている。
もともと割れたのか後から割れたのかは不明。

ペンダントは物語中・・
いくつもの過程を経て鈴木アマヒコに届く。

ペンダントの行方

①木村有江の母は、殺されたトンネルから木村有江を呼びペンダントを渡す。
②木村有江は、ペンダントの半分を日暮さんの兄に渡す。
③日暮の兄は、ペンダントを小学生鈴木アマヒコに渡す。
④これで二人は出会えるはずが、小学生の小松崎に「目を覚ますのはまだ先」
と言われ、小学生アマヒコはペンダントをトンネル内に落としてしまう。
⑤大人になった小松崎は、一つ目の怪物にペンダントの場所を教えてもらう。
⑥小松崎は、荒川マキにペンダントを託し、荒川マキは現代の鈴木アマヒコに渡す。
⑦そして双子は出会い世界は滅びへ向かう。

ペンダントの行方はこんな感じだけど
このペンダントの意味・位置づけは何か。

これも「ブリキの空箱」と同じ
「世界を終わらせるため」の道具。

ただしブリキの空箱とは違い
これは木村有江の母の意志が含まれ
絶対的に「世界を終わらせてしまう」力を持つ。
ブリキの空箱とは違い可能性はない。


この二つの道具は

同じ意味でありながら
違う意味も持つ不思議な道具。

「ブリキの空箱」
開けてもいいし開けなくてもいい。
これは自由だ。

もし開けたのなら絶望たる事実を
認めることになり世界は滅ぶことになる。

もし開けないのなら
唯一世界を滅ばないのかもしれない。
その運命を受け入れるときなのかもしれない。
そのときは世界は滅びない。

一方「蝶のペンダント」
双子を出会わせるための道具。
世界を滅ぼすためだけの道具。


「世界を認めるも認めないも自分自身」
運命や決断、意志や勇気。

そんなテーマを
双子ブリキの空箱蝶のペンダントで示す物語。

「世界の矛盾」が存在しながらも
それでも普通に存在して続いていく世界。
そしてその矛盾が作ってしまった絶望的な双子。

世界の矛盾を受け入れるか
受け入れないかを示すブリキの空箱

世界の矛盾を示し、
世界を終わらせる道具である蝶のペンダント

自分がまとめるとすると
こんなストーリー解釈になります。

③ちょっとだけ補足

ちょっとだけワンシーンの補足。

本作品がループや輪廻の話と思うひとつに
現代の鈴木アマヒコが木村有江の母のお墓の前で
お墓の右角をなでるシーンがある。

出典:コミック「虹ヶ原ホログラフ」

そしてその墓石は
「右上の角が取れて不自然に丸みをおびていた」
という描写があります。

硬い墓石が丸みをおびるまで
なでる回数は一体何回なのだろう。

まさにこれはループや輪廻の
描写ではないかと感じたわけです。

またブリキの空箱を開けたということは
「矛盾」を世界に作る解釈になりますが

小学生アマヒコが開けた一回目で
ひとつの矛盾が世界に作られた。

つまり同時期に小学生アマヒコと
現代のアマヒコが出会ってしまった。

そして現代のアマヒコが
二回目のブリキの空箱を開けてしまった。
ここでふたつの矛盾を世界に作る。

そのため病院の屋上シーンでは
三人のアマヒコ(ふたつの矛盾)という
視点になっているのではないかと感じます。

ということは?
ブリキの空箱を開ければその回数だけ
最後の屋上でアマヒコが何人も?と
無限アマヒコを想像すると面白いかも笑。


さて、ここまで読んでいただいた方が
いるかどうかが疑問ですが笑
考察と解釈のまとめは以上となります。

壮大な伏線とテーマが1冊に詰まっています。
考察や解釈は多くの視点を持てそうな作品だし
何度読んでも解釈が変わる作品でもありそうで。

またの機会に読むことがあれば
また考察や解釈を書き足すのもありかな。
いや・・やっぱりやらないかな笑。

~注意点~ 

①壮大で難解で楽しめない作品

難解で多視点で壮大です。
そして楽しめるかというとそうでもない。

自分自身も4回読んで、時系列やキャラ情報を
箇条書きでメモして記録していたので
もう何のために本作品を読んだのかと笑。

ここに関しては全1冊とは言え
簡単に手を出すと後悔するのでご注意を。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「虹ヶ原ホログラフ」を一言で言うならば

浅野いにお超難解SF作品  

記事冒頭に載せたコミックの帯画像に
「こんな作品、もう描けないと思います」
作者が言うように、まさに奇跡的で熱量もすごく
異質で複雑に練られた作品です。

この1冊に詰められた様々な経緯に感謝。
「楽しめないけど衝撃的に面白い」マンガです。


個人的好み度
 98%

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