本日の映画紹介は 「サカサマのパテマ」です。
○原作・監督・脚本 吉浦康裕
○音楽 大島ミチル
○製作 スタジオ・リッカ
○封切日 2013年11月9日
物語の結末、重大なネタバレを含みます。
作品鑑賞後に見ることをおススメします。
■あらすじ
「かつて、多くの罪人が空に落ちた」とされ、「空」を忌み嫌う世界・アイガ。そこに暮らす少年・エイジは、ある日、サカサマになってフェンスにしがみつく少女・パテマと出会う。パテマは重力が逆転した地下世界の住人で、行方不明の友人・ラゴスを探して散策するうちに地下世界からアイガへと「落ちて」しまったのだった。(wikipedia引用)
スタジオ・リッカの吉浦康裕が
原作・監督・脚本を務めた長編アニメ映画。
物語はある日、重力が反転している
少女:パテマに出会った少年:エイジの
二人の少年少女が描くSF作品。
相反する重力を持つ少年少女が
互いに抱き合うシーンが印象的で
本作の世界観を象徴するワンカット。
~映像・音楽~
監督は「吉浦康裕」
2010年に同じく原作から監督・脚本を
務めた「イヴの時間」に続いた本作。
音楽は「大島ミチル」
テレビ・映画・アニメ・ゲームなど
数多く幅広い作曲を手掛けています。
~演出・時間~
上映時間は99分。
本作世界観で重要な「重力反転」という
そのSF要素と舞台(世界観)の説明も含むと
おそらくかなりのボリュームになりそうですが
そこは割とライトで軽快に物語を進めているので
100分未満で見やすい時間配分となっています。
~見所ポイント~
①サカサマの世界
やはり題材の「面白さ」に尽きます。
物語は地下にいる「パテマ」という少女視点
から始まり、あるきっかけでパテマは空洞に落ち
天地の反転した世界で少年エイジに出会う。
エイジのいる世界は「アイガ」と言い
そこでパテマは自分のいた地下世界が
反転重力の世界であることを知った。
お互いの体が相反する重力となるため
「空に落ちるパテマ」を掴むエイジの姿。
少年少女のサカサマの世界観は魅力的な導入。
②ネタバレ解説
本作の魅力はその「サカサマ」の世界の
謎や展開にあるので今回はネタバレ有で
映画視聴後の方に向けた解説も含めます。
話の展開に着いていけなかった方や
改めて物語整理をしたい方は是非ご覧あれ。
(簡単ですが説明用画像も用意しました)
タイトルにもあるように
パテマは「反転重力」の性質を持った世界。
これはかつてエネルギー実験の失敗により
世界が反転してしまった人類の生き残りだった。
反転重力の人間は「地下」で暮らしていた。
パテマはかつて「地上世界」に向かった
ラゴスという男性を追って空洞に落ちた。
そこで地上世界「アイガ」でエイジという
少年に出会うことで物語は動き始める。
![](https://manga-beta-beta.com/wp-content/uploads/2021/05/サカサマのパテマ-1-1024x576.jpg)
地上世界「アイガ」では反転重力の影響を受けた
地下世界の生き残る人間達も空も忌み嫌う世界。
空を見る事を禁止される世界で空を見るエイジ。
かつて空に飛ぼうとした父を落下事故で亡くし
エイジは「空」に複雑な感情を持っていた。
パテマと出会ったエイジであったが
パテマは地上で見つかり連れ去られてしまう。
そしてラゴスは地上世界で亡くなった事を知る。
なんとかパテマを救い出すエイジであったが
パテマの拘束具によって空に落ちてしまう。
![](https://manga-beta-beta.com/wp-content/uploads/2021/05/サカサマのパテマ-2-1024x576.jpg)
ここでひとつのどんでん返し。
空に落ちた二人が見たもの、星空と思った
その光は天空に立つサカサマの街の姿だった。
そこにはかつて空を目指した父の形見でもある
飛行船があり、そこでラゴスとエイジの父が
交流を持っていた証の「日誌」を見つける。
エイジとパテマはその飛行船を使って
地上の世界「アイガ」に戻り、エイジは
パテマを地下の世界に戻すことを決意する。
地下の世界を根絶やしにしようとする
アイガの人間との攻防の末、エイジとパテマは
サカサマの世界で衝撃の事実を知る事となった。
物語はここでさらにどんでん返し。
まさに「サカサマ」の事実が隠されており
説明用の画像も180°ひっくり返します ( ゚Д゚)
![](https://manga-beta-beta.com/wp-content/uploads/2021/05/サカサマのパテマ-3-1024x576.jpg)
物語の顛末はまさに「サカサマ」で
反転重力と思っていた地下のパテマ達が
実はもともとの世界のもので
エイジのいる世界である「アイガ」こそが
反転した世界で人工的な空で構成された
サカサマの世界であった。
まさに「サカサマ」となるその物語構成は
観ていて引き込まれるし魅力的な展開でした。
エイジとパテマが空に落ちて発見した
天空にあるサカサマの街が見つかった瞬間に
おそらくこの「サカサマ」の事実はわかりそう。
ただ、地上世界「アイガ」という名前が
ガイア(大地)の反転名という安易なヒントで
序盤で気づいてしまった人も多い気がします笑。
③サカサマの重力描写
サカサマの相反する重力で向き合う
エイジとパテマのボーイ・ミーツ・ガール。
二人が反対に向き合う印象的な姿や
互いの重さの差で浮き上がる描写など
サカサマ独特な構図はとても魅力的でした。
「空に落ちる」というその恐怖の演出は
世界観に引き込まれました。
~注意点~
①SFとしての未熟さ
前提に本作が本格的なSFでなく
あくまでファンタジーと言ってしまえば
それはそうなのですが・・・
それでも「重力」という物理原則題材となると
「SF」としての世界観説明は欲しいところ。
そういう意味では本作のSF世界観設定は
かなり説明不足だし「粗さ」は目立ってしまう。
本作世界観では重力自体が反転ではなく
過去の実験事故により影響を受けた人や物体が
「反転重力」となってしまった世界なのか?
空間や物体の反転重力設定に謎は残る。
厳密に言えば「重力」は地球と対象物の引力と
地球が回る遠心力の差し引きの力と言えるが
一部の世界だけ「反転重力」になる原理は
なかなかSF観点で説明が付くのかどうか。
これはどういう「物理原則」でそうなったか
その原因や原理は最低でも説明が欲しかった。
もしかしたら公式設定資料集などで
かなりの世界観説明がされているかもですが
少なくとも映画単体では不明点が多いので
ここはやはり残念なところ。
むしろ「重力」は「引力」という視点。
二人を引き離そうとする「重力」が
引き合わせようとする「引力」に
テーマが近づくような演出だったら
SF観点、テーマの面でも良かった気もする。
②設定は傑作。全体としては佳作。
「サカサマの世界」「サカサマの謎」など
題材はもうアニメとして最高の材料でしたが
どうしても「重力」というSF要素の面では
説明不足や粗さが目立って「佳作」どまり。
エイジとパテマのシーンももっと
サカサマを活かした演出が見たかった。
本当にこれ、原作は最高だと思うので
もっと煮詰めて再アニメ制作としたら
神アニメ映画になり得る作品だったと思う。
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「サカサマのパテマ」を一言で言うならば
「サカサマなのは世界?思考?」
物語や展開がひっくり返る「サカサマ」
人類や思考がひっくり返る「サカサマ」
アニメの世界観で常にひっくり返る
その構図や演出が光る本作ですが
SFとしての世界観構成不足の補填と
エイジとパテマの少年少女の「サカサマ」な
構図を活かした魅力的シーンが抜群であれば
アニメ映画史上に残る傑作になり得たと
本気で思えた作品でした。惜しいけど佳作。
それでも舞台やアニメ―ションが
見事に「ひっくり返る」その「サカサマ」な
世界観は、とても魅力的で素敵な作品でした。
5つ星評価
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