本日の映画紹介は
「ジオラマボーイ パノラマガール」です。
○原作 岡崎京子
○監督・脚本 瀬田なつき
○音楽 山口元輝
○製作 オフィス・シロウズ
○封切日 2020年11月6日
■あらすじ
東京に住む平坦で平凡な高校生・渋谷ハルコ、16歳。ある夜、橋の上で倒れていた神奈川ケンイチにひとめぼれする。“世紀の恋”だとはしゃぐハルコに対して、真面目でおとなしげなケンイチは、受験目前、衝動的に学校を辞めてしまいそれどころではない。さらに勢いでナンパした危険な香りのする女の子・マユミに夢中になっていく。二人の平行線の恋はどこへ行くのか。友だちや家族や自分、悩みもがく少年少女の刹那的な視線を切り取った、恋と成長の物語。(映画公式サイト引用)
岡崎京子原作の1988年漫画による
実写映画化作品。
話の大筋は
運命の恋に心躍らせるハルコと
高校をやめて衝動的な行動を取るケンイチ
二人の高校生男女の出会いを描く
ボーイ・ミーツ・ガール作品。
岡崎京子さん独特な「性」や「俯瞰的」な
視点をどのように実写で表現されるかが
原作ファンとしては気になる点です。
~映像・音楽~
監督は「瀬田 なつき」
過去作品では
「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」
「PARKS パークス」などが挙げられる。
音楽は「山口元輝」
バンド・相対性理論のドラマー。
劇中ではBGMが無いシーンも多いですが
作品世界観に沿った音楽だったり
明るめでポップなエンドロール音楽は好き。
~演出・時間~
上映時間は105分。
1988年掲載の原作漫画は
岡崎京子さんの「性」の描き方や
漠然とした「世界」への不安や不足感とか
支離滅裂な物語の「分解」や収束だったり
やはり岡崎京子さんの「作家性」を
どのように実写化していくかが注目点ですが
本作は時代設定を現代にしている点
また原作とも違う点を多く用意していて
原作のストーリー再現寄りではない印象だった。
~見所ポイント~
色々語りたいところがあって・・。
ちょっと長文かもしれません。すみません。
①変な恋愛映画
一言で言えば「変な恋愛映画」
これが見所なのかというのも疑問ですが汗
岡崎京子さんの原作漫画は曲者なので。
そのなかで本作品はボーイ・ミーツ・ガール。
はたから見ると「男女青春物」に見えますが
本作においては別物だと思った方がよいです。
②ハルコ役の山田杏奈さん
時代設定は現代に変えていますが
本作主人公の女子高生ハルコは
どこか古臭くダサい感じが残っていて
その雰囲気に乗っかる山田杏奈さんの
演技やその雰囲気はすごく共感できたし
素直に良かったなぁと太鼓判。
特に表情の豊かさは魅力的で引き込まれた。
ネタバレ防止で詳細は語りませんが
終盤のハルコが早朝の街を歩く
余白たっぷりのシーンに関しては
原作テーマの根本を表現した名シーン。
朝帰りで顔色悪く体調悪そうな
ものすごい顔して歩く山田杏奈さん笑。
原作漫画における
「主観」から「客観」に戻ってしまう
ハルコの心情を「俯瞰」して感じる数十秒。
あのシーンの「余白感」は個人的にイチオシ。
③明るさと薄さ
原作漫画のリスペクトを再現するなら
「恋愛」のあっけなさとか
「世界」への退廃的で俯瞰的な視点
「性」の衝動だったり冷め方とか
その部分が気になるところなんですが
岡崎京子さんの「退廃的」なその視点を
本作品では「明るさ」と「薄さ」で
意識的に表現していたのかなぁと感じます。
衝動的で運命的な部分を「明るさ」
退廃的で俯瞰的な部分を「薄さ」
そんな風な視点でハルコに注目すると
恋に夢中で心躍らせる場面では
煌びやかな東京、派手な服装、青春など
「明るさ」の目立つ演出だっと思う。
それと対比されるように
いや大げさに言えば「それ以外」の場面は
どこか色が落ちて「薄い」演出が目立っていて
特に劇中では退廃的な一面を
「明るいけど色が薄い」という点で
「早朝」にフォーカスして演出していて
ここに関してはすごく世界観に入り込める。
「早朝」「朝帰り」など
盛り上がりから覚めるその一瞬という
あの「高揚」と「消沈」が入り混じる
なんとも言えない「退廃的」な瞬間は良い。
~注意点~
①原作との対比について
本作が「原作寄り」か「原作寄りでない」
のどちらかと言えば後者の印象でしたが
監督の真意がどうかは実際のところわからない。
ただ、
時代設定を現代に変え
原作の退廃的、衝動的な面は継承し
ただのボーイ・ミーツ・ガールではない
独特な雰囲気を描いている本作品は
どこか振り切れない「中途半端さ」を感じて
個人的には「原作ファン」としても
「単一の映画作品」と見たとしても
「不思議で変な恋愛映画」という印象。
だから正直どの層にもそこまで
おススメできない映画作品かなと思う。
②岡崎京子作品として
岡崎京子さんの原作漫画の要素で
先に記載したものをまた挙げるとすると
上記でどの部分を映像作品として
より強めて表現していくかと考えたとき
1に関しては時代設定を現代に変え
原作ストーリーの重要部分を継承するものの
その世界観は「変な恋愛映画」止まりな印象。
2に関しては見所でもあげた「明るさ」「薄さ」
など、その部分の表現方法は素敵に感じるも
作者特有の世界観は実写では浮いていた印象。
3に関してはそもそもPG12設定で
刺激的な性場面はカットされているので
2と掛け合わせられなかった無念もある。
上記踏まえるとやはり「中途半端」で
客観的に見ても「変な恋愛映画」止まり。
世間評価もあまり上がらない気がしてしまう。
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「ジオラマボーイ パノラマガール」
を一言で言うならば
「変な青春恋愛映画」
岡崎京子さん原作漫画の雰囲気は
なかなかに実写では難しいと思う。
それは「恋愛」「退廃的」「性」など
どの部分もマンガ的な「キャッチー」さや
「余白」をコマ割りで表現する手腕を
実写化で表現する際の「壁」があるからかと。
そこが「難しい」ということは、逆に言えば
原作漫画は絶妙で神がかりな「表現」とも言え
やはり原作ファンとしては実写化には違和感。
それでもその原作雰囲気を
「明るさや薄さ」と「早朝」などで描く手腕は
個人的には良かったし好きな演出でした。
終盤の早朝でハルコが歩くシーンは秀逸。
原作ファンとしても、単一映画としても
なかなか本作品はきっと「変な恋愛映画」だけど
深夜のレイトショーか早朝に鑑賞した後
物思いにふけて余韻を楽しむには良い作品。
5つ星評価
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